大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和55年(ワ)6638号 判決

原告 株式会社カンダ

右代表者代表取締役 中野寛孝

右訴訟代理人弁護士 大原誠三郎

同 小田切登

被告 株式会社福宝

右代表者代表取締役 柴田貴由

被告 小野高路

主文

一  被告株式会社福宝は、原告に対し金一三七万五〇〇〇円及び内金四三万七五〇〇円に対する昭和五五年三月一三日から、内金九三万七五〇〇円に対する同年四月一日から各支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告小野高路に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告と被告株式会社福宝との間においては原告に生じた費用の二分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告小野高路との間においては全部原告の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

(申立)

一  原告

被告らは原告に対し各自金一三七万五〇〇〇円及び内金四三万七五〇〇円に対する昭和五五年三月一三日から、内金九三万七五〇〇円に対する同年四月一日から各支払いずみまで、被告株式会社福宝は年六分、被告小野高路は年五分の各割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行宣言

二  被告ら

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(主張)

一  原告の請求原因

1  原告は家具及び日用品雑貨の販売等を業とするもの、被告株式会社福宝は宝石、貴金属、時計の輸入及び国内販売等を業とするもので、もと東棉通商株式会社と称していたが、昭和五五年一月一二日株式会社ハローシ商会と商号を変更し、次いで同年九月一八日(一〇月一一日登記)現商号に変更した。被告小野高路は昭和五四年一二月一二日から昭和五五年九月一九日(一〇月一一日登記)まで右ハローシ商会の代表取締役の地位にあったものである。

2  原告は、昭和五五年三月一一日、ハローシ商会に対し、カラーボックス一五〇〇セットを単価一二五〇円合計一八七万五〇〇〇円、支払方法商品納入時に半額を現金で支払い、残金は同年三月末日に現金で支払うとの約で売渡し、同月一二日ハローシ商会が指定した大鳥倉庫株式会社品川倉庫宛搬入して納品した。

しかるにハローシ商会は、同月一三日五〇万円を支払っただけで残代金を支払わない。

よって原告は、被告会社に対し、右残代金一三七万五〇〇〇円及び各弁済期の翌日である内金四三万七五〇〇円については昭和五五年三月一三日、内金九三万七五〇〇円については同年四月一日から各支払いずみまで、商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

3  原告とハローシ商会との間の本件売買契約当時、ハローシ商会は多額の負債のため原告に対し右代金全額について支払いの意思も能力もなかった。しかるにハローシ商会は右事実を秘匿し、あたかも約束通り代金支払いの意思があるかのように装い、その旨原告を欺罔して売買名下に本件商品を詐取し、他にバッタ売りをした。

被告小野は、代表取締役でありながらこれらの業務一切を東棉通商株式会社時代の代表取締役であり、被告小野が代表取締役に就任した後も依然としてハローシ商会の実質的経営者であった大矢忠ほかの従業員に一任し、代表取締役として当然右のような不法行為をしないよう善良な管理者の注意をもって管理監督すべきであるのにこれを放置した過失により、原告に前記残代金相当額の損害をこうむらせた。

よって原告は被告小野に対し商法二六六条の三の第一項により右損害金と民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被告の認否及び主張

請求原因1のうち被告小野が昭和五五年一月一六日から同年三月末日までハローシ商会の代表取締役であったこと、ハローシ商会の営業目的は認めるが、その余は知らない。被告小野は、大矢忠から会社の営業上の責任は一切負わなくてよいから名前だけ貸してくれと頼まれ、名目上代表取締役に就任した。報酬も受けていないし、出勤したこともない。大矢が債権者の追及をかわすため被告小野の名前を利用したのである。同2は不知。同3は争う。

(証拠)《省略》

理由

一  被告株式会社福宝に対する請求について

1  《証拠省略》によれば被告会社はもと商号東棉通商株式会社と称していたが、昭和五五年一月二一日株式会社ハローシ商会と商号変更登記、同年一〇月一一日株式会社福宝と商号変更登記をしたことが認められる。

2  《証拠省略》によれば、原告は家具及び日用品雑貨の販売等を業とするものであるが、昭和五五年三月一一日、被告会社の実質的な代表者である大矢忠とその部下金光浣洙との間で三段カラーボックス一五〇〇セットを請求原因2記載のとおりの約定で売渡す旨の売買契約を締結し、同月一二日引渡したこと、及びハローシ商会は代金中同月一二日支払う約の九三万七五〇〇円のうち五〇万円だけを支払ったことが認められる。

3  右事実によれば、被告会社は、残代金一三七万五〇〇〇円とうち四三万七五〇〇円に対する昭和五五年三月一三日から、うち九三万七五〇〇円に対する同年四月一日から各支払いずみまで、商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があり、原告の被告会社に対する本訴請求は理由がある。

二  被告小野高路に対する請求について

1  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

被告小野は、高等学校卒業以来昭和三二年頃から一貫して不動産仲介業にたずさわってきた。昭和五四年一二月一〇年来の知人である佐藤文俊の紹介で大矢忠を知り、ハローシ商会の代表取締役に就任するよう依頼された。大矢の話では経営上の責任は一切負わなくてよいということであったので、小野は、昭和五五年一月一六日、ハローシ商会の所在場所、営業内容、従業員数等、全く知らないまま代表取締役になることを承諾し、大矢は同月二一日、昭和五四年一二月一二日に就任したとして登記をした。小野は、ハローシ商会へは一度も出勤していないし、経営に参画したこともなく、大矢が取締役会長と称し事実上の代表者として業務の執行をしてきた。代表取締役としての報酬の支払いを受けたこともない。同年三月一〇日中川商事から百二、三十万円の売掛代金の請求を受け、はじめてハローシ商会が多額の債務を負担していることを知った小野は、同月一七日大矢に抗議したところ、大矢は同月二一日、四月末日までに辞任の登記をすることを約し、同年一〇月一一日に至り被告会社(同日商号変更)の取締役辞任の登記をした。大矢は昭和五二年頃から売買名義で物品を騙取してはいわゆるバッタ売りをし、発覚しそうになると倒産をよそおったり、商号を変更したりし、あるいは他から騙取した物品で代物弁済するなどして糊塗してきたが、同年一一月二六日詐欺容疑で逮捕された。本件取引に際しても、ハローシ商会の設備、資産、業績等を過大に紹介した会社経歴書を作成し、これを原告に交付して買受申込をした。

以上の事実が認められる。

2  右事実によれば、大矢は当初から本件物件を原告から騙取する意図のもとに、情を知らない小野を名目上の代表取締役として本件取引をしたものと推認することができる。このような場合、名目的形式的な代表取締役にすぎない小野については、実質的な経営者であり業務執行者である大矢が不法行為によって原告に損害を与えることを知っていたか、又は容易にこれを知ることができた等の特段の事情がない限り、右不法行為を未然に防止すべき監督義務はなく、仮にこれがあったとしてもその懈怠には悪意又は重過失はないと解するのが相当である。

そして本件において右特段の事情は認められないから、被告小野には商法二六六条の三に基づき原告がこうむった損害を賠償する義務はないというべきである。原告の被告小野に対する本訴請求は理由がない。

三  以上により、原告の本訴請求中被告会社に対する請求を認容し、被告小野に対する請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、仮執行宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大城光代)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例